
街で見かける看板やモニュメント、それを長年手がけてきた「日崎工業」が、その技術力を生かしてキャンピングトレーラーを作り上げた。設計から組み立てまでを社内で行なってしまう金属加工のプロ集団が作り上げたトレーラーと、そこに込められた思いを紹介する。
金属加工の知見と技術が生かされた「Free Nomado」

ガバっと開く大きな側面の開口部が特徴的なこのトレーラー、日崎工業のアウトドアブランド「Hi-Monde(ハイモンド)」の中、「Free Nomado(フリーノマド)」ブランドから誕生したもの。2021年の春頃から開発を始めプロトタイプとなるトレーラーが完成した。現在は社長や担当社員が実際に使用し、その使用感や改善点を確認しているところだ。


こちらのトレーラー、骨組みにアルミを使用し、ソーラーパネルやバッテリーを積んでも750kgを大きく下回る650kgにおさまっている。そのアルミも、これまで培った知見をもとに、アルミの中でも軽くて丈夫な素材を使用して、超軽量で堅牢な構造を実現している。さらに実際のトレーラーの製造の工程もなるべくスムーズに組み立てが進むように設計を工夫しているのも、長年金属加工を行なってきた同社ならでは。
実際、プロトタイプを見せてもらっても随所に手作りの部品をみることができた。アイデアをすぐに形にする企画・設計力と技術力の高さが伺える。


オフグリッド型モビリティスペース
今回のキャンピングトレーラー、目指すのは電力を自給自足できる(オフグリッド)、自由に移動できる空間(モビリティスペース)。それを実現する大きな特徴が、屋根いっぱいのソーラーパネルとリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを100Ahバッテリー×4個という手厚い電源システムだ。このバッテリー容量、かなりの大容量で実際に使ってみても満充電で1日分は十分、天候にもよるが、ソーラーパネルからの給電だけでも2日あれば満充電にできるそう。外部から電源をとることも可能だ。この電源システムにより、災害時の避難スペースや給電施設の災害対策はもちろん、レジャーやキッチンカー、店舗など多様な用途での活躍が期待できる。


取り組みが評価されて第129回かわさき起業家オーデションにて、会場内最多6賞受賞しているこちらのトレーラー。気になるスペックだが、前述のとおり750kg以下なのでけん引免許は不要、備え付けの装備はキッチンや収納などでシンプルな作り。ソーラーパネルとバッテリーについては希望によってある/なしを選択できるようになる。年内には実際に販売される量産型の1台目ができ上がり、その価格は250〜350万円程度になる予定だ。窓が増え、キッチン周りの設備や、全体のデザインもブラッシュアップされる。
金属加工のプロ集団

このトレーラーを生み出したのは、川崎にある日崎工業。この道55年の金属加工のプロ集団。もともとは、商業施設で見かける看板や案内板、駅や広場にある金属のモニュメントなどを手がける会社。じつは丸ビルのクリスマスツリー(2017年)や都庁前駅のアーチ型のアートモニュメント「幻想のオアシス―光の輪―」なども同社の手がけたもの。社内で企画、設計、製作、施工まで行なう「すごい人たち」だ。


環境を意識した取り組みも
2011年の東日本大震災をきっかけに、エネルギー問題や地球環境への負荷を意識した取り組みも行なっている。じつは代表取締役である三瓶さんのルーツが福島県の浪江町と富岡町。あの福島第一原発事故で被害が大きかった地域なのだ。その事故の影響の大きさと浪江町、富岡町の変わっていく様を見て、脱CO2経営を目指し、まずは自分たちで使う電気を自分たちでまかなおうと社屋にソーラーパネルを取り付けたそうだ。現在使用する電気量の削減なども合わせ、以前に比べCO2の排出量が半分になったそう。2030年までにはCO2の排出量を0にという目標もある。


さらに、日崎工業では本業の製品の製造過程で出る金属の端材も社内で再利用している。そうして生まれたのが、現在同じアウトドアブランド「Hi-Monde」から「Kumpel(クンペル)」シリーズとして発売されているアウトドアギアたちだ。
使い込むほど満足度が上がるアウトドアギア「Kumpel」シリーズ

今回のトレーラーよりも同社からひと足早くデビューしていたのが、アウトドアギア「Kumpel(クンペル)」シリーズ。こちらも今まで培ってきた板金加工の技術を活用し、ステンレスを使った様々な製品を送り出している。どれもオリジナルのデザインで、かゆいところに手が届く製品ばかり。人気なのが「ランプシェード」と「マルチウォーマー」。ランプシェードは、スタンドとシェードのセットで、ゴールゼロ・LEDライトを付けて楽しむよう設計されている。マルチウォーマーは、オイルランタンの上に被せてランタンの熱を利用しウォーマーとして、そしてシングルバーナー、アルコールストーブ、固形燃料それぞれのごとくや風防として使える1台4役の優れもの。1本のパイプから切り出されたデザインも楽しみたい。


そのほかにも焚き火台をはじめとした製品が揃っている。2つのサイズが展開されていて使い勝手のいい「マルチボックス」は、トランクをイメージしたデザインで、大きなちょうつがいが特徴的。このちょうつがい、デザインのアクセントになっているのはもちろんだが、じつは工場で出る端材なんだそう。現在無塗装のものが販売中で今後塗装されたものがラインナップされる予定。組み立て式の「アルコールストーブ・固形燃料コンロ ごとくさん」はカラビナで平面的にまとめて持ち歩ける上に、組み立てもストレスなく高い技術力を感じられる1品。それぞれの製品同士、組み合わせて使えるものもあり、シリーズで揃えても便利だ。






これらのアウトドアブランド「Hi-Monde」とそれぞれのシリーズの名前には、さまざまなシリーズが色とりどりの木の葉となり、ハイモンドという1つの木になっていくという意味も込められているそう。そしてなんと今後、ハイラックス用のキャノピーも登場する予定とのことで、知る人ぞ知る?この日崎工業の製品、ぜひ注目していきたい。
■日崎工業:https://www.hizaki.jp
■Hi-Monde:https://www.hi-monde.com(インスタグラム:@hi_monde.official)