キャンピングカー・ビルダー紹介

2021年型ZiLはそれまでのZiLを超えたか

キャンピングカーメーカー VANTECHの誇るロングセラーモデルZiL(ジル)の人気の理由をその系譜とともに探る

ZiLの歩んできた歴史

すでに20年を超えるZiLの歴史。オートキャンパー編集部に残る貴重な資料画像とともに、振り返って行きたいと思う。

1997年2月 ZiL(初代)

「ZiLの歴史はここから始まった。」
まだカムロードはなく、ベース車にダイナを採用。もちろんワイドトレッドもなく、エンジンは2800㏄、ノンターボディーゼルの3ℓだった。走りも乗り心地もトラック然としていたが、全長5mとは思えない居住空間が支持されて人気となった。またこのボディカラーから、通称”緑ジル”と呼ばれていた。韓国のKIAのトラックをベースにしたモデルもわずかな期間だが販売された。
もちろんフル装備で、FFヒーターは対流式のガス仕様。その後、窓をガラスにして家具の質感を変えたジルライトをリリース。ベース車は初代カムロードだったが、約30万円も安かった。

セカンド&サードシートともにオリジナルのマルチアクションタイプを採用。サイドソファは若干狭く、ベッド展開すると異形となってしまう。バンクベッドはこのときからすでにスライド延長方式だった

1998年8月 ZiL(2代目)

「フロントエントランスの衝撃」
ZiLの歴史のなかでほんとうにあったのか?と疑ってしまう、フロントエントランス仕様が実在していた。対面ダイネットに単座、サイドキッチンで最後部にシャワー&トイレルームを設置。どこにもZiLらしさが見られない作りだ。唯一、冷蔵庫が高い位置にあり使いやすいのが共通点か。ベース車はカムロードのワイドを使用。

コルドシリーズといっても通用するようなレイアウト。ダイネットのベッド展開は補助マットを使用。キッチンはシリーズ中、唯一のダブルシンク。通称„フロント”と呼ばれていた

1996年6月 ZiL Cruise

「エルフベースの“快足”クルーズ登場」
レイアウトや装備、仕様に関しては緑ジルを踏襲。ベース車はシリーズ初となるエルフだ。カムロードのパワー不足を嘆くユーザーの声にこたえた形だが、バンテックではクルーズ発売以前から、ほかのモデルでエルフを使っていた。この時期には本家のZiLもボディカラーが変更されており、いずれも”青ジル”と呼ばれていた。

今では想像できないかもしれないが昔は柄物のシート生地が当たり前。サイケな模様も多く、青ベースの格子柄はまだマシだった。社内での呼称は”ジルエルフ”だったとか

2002年2月 ZiL FIX

「ユーザーの声から生まれたジル!」
それまではマルチアクションシートを使い、セカンドシートは前向き展開が可能だったが、このフィックスからは固定式となった。現在採用されているダイネットのベースとなったモデルだが、セミオーダーで製作したところ、このほうが使いやすいとの声が多く正式モデルとなった。テーブルをベースにする簡単なベッド展開は、面倒なシートアレンジが不要で好評だった。開放的な空間がよりゆったりと、どこに座ってもくつろげた。

固定式のセカンドシートは座面を跳ね上げると収納庫として利用できる。4代目までこの仕様が採用されており、左サイドのバゲッジドアからもアクセス可能。座面はバネ式で開けた状態で固定できた。また、発売当時に本誌に掲載された広告では、カラー見開きでドーンと宣伝。この当時、カラーの見開き広告はあったが、ジルだけ、1台のみで掲載するのは異例。それほど力を入れており、装備に関してもすべて明記していた

2003年10月 ZiL(3代目)

「外装に大幅な変更を施し3代目ジルが誕生」
現行モデルに通じるボディ形状を採用。それまではパーツごとにFRP成形でボディを構成していたが、3代目からは一体成型ボディとなった。そのため、より流麗な曲面形状となっているのが特徴。ボディカラーは薄緑となったほか、「ZiL」のモデル名も大胆に入った。車内で特徴となったのは曲面形状のキッチンで、スライド式の大型収納庫を採用している。

レイアウトに変更はなく、家具や室内のトーンも同様。木目を生かしたつき板仕上げの家具は質感も上々で高級感を持っていた。白熱タイプのスポットライトを多用したのも特徴の1つだった

2004年7月 ZiL520

「2×5mの枠を超え常設2段ベッドを装備」
ZiLでありながらまったく違うモデル、それが520なのだ。まずはサイズだが、2×5mの枠を超えて全長は5160㎜と、最新モデルと同じだ。さらにリヤ常設2段ベッドを採用。当時人気だった仕様で、これを採用するために全長を延ばした。ダイネットは対面シートにサイド単座を備えている。エントランスはフロントとなり、キッチンはサイドに配置。居住性の広々感は本家のジルよりも劣るが、ベッド展開が不要で4人が寝られる点がウケて人気となった。

多少は落ち着きのあるシート生地となったが、なぜかテーブルの天板のカラーは濃い青。3代目からの継承であるが、どこかミスマッチ…。常設2段ベッド下は左サイドのバゲッジドアから外部収納庫として使える。窓は下段が3方向、上段は右サイドのみと不思議な構成だった

2006年6月 ZiL480

「2人旅がコンセプトの480」
コンパクトなボディが特徴で、車名にあるように全長は4800㎜。全幅も抑えられていたのでキャブ段差もわずかだ。そのためワイドトレッドでなくても車両安定性が非常に高かった。車内はZiLとはまったく異なり、横座りの対面ダイネットを採用。サイドキッチンに最後部にはシャワー&トイレルーム。固定式の上段ベッドはかなり個性的な作りだった。

常設の上段ベッド下を使って、右の横座りソファをシングルベッドとした。限られた空間を効率よく使ったベッドだが、ほかのモデルで使われることはなかった

2013年2月 ZiL NOBLE

「シリーズ史上もっとも美しい内外装」
ZiLと名づけられているが、完全な派生モデルでZiLの面影はない。最大の特徴はセカンドシートをキャブ後部のエンジンフード上に設けたこと。ダイネットで4人着座を実現しつつ、シャワー&トイレルーム、十分なサイズのリヤベッドを装備し、効率のいい作りとなっている。明るい内外装の色遣いも好印象だ。

520とも異なるリヤ常設ベッドを採用。多くのモデルが、このベッドの作りだと割り切りの2人仕様となるが、ファミリーユースにも対応するダイネットがウリだ

社長が語るZiLへのこだわり

現在発売されているZiLは、5代目にあたる。この5代目は、リリースの話が聞こえてきて、発売が正式決定された後もその姿を見せることなく、2015年のジャパンキャンピングカーショーの会場で初めて公開された。そして公開された「新型」ZiLは、これまでのZiLの常識を覆し、全長が5m超という思い切ったモデルであった。そのモデルチェンジへのこだわりを社長、そして設計チームが語ってくれた。

代表取締役の佐藤徹社長は、入社しておよそ四半世紀。ZiLの歴史や過去にラインナップしていたモデルについて聞くのにもっともふさわしい人物、まさにバンテックセールスの生き字引。

全長5mのこだわりを捨てた新たな挑戦

やはりジルは2×5mキャブコンの代名詞のような存在。その歴史とコンセプトを簡単に捨てていいのだろうか?

「全長を5m超にした最大の理由はコルドシリーズとの住み分けです。これまで両車は同じ車両サイズ。コルドのバンクスやランディはジルとまったく異なるレイアウトですが、リーブスは仕様こそ違いますが、同じリヤエントランスで対面シートとサイドソファのダイネット。そこで新型のジルは5m超にして、より居住性を高めようと。逆にコルドは5m未満にして、明確に分けたのです」(設計チーム)

「5mへのこだわり、これは社内でも意見が分かれました。ジルは5mだからいいのであって、なぜ長くするのか?という疑問もありました。でもジルの新型を発売する以上、中途半端なことはしたくない。これはすべての社員の思いでしたね。実は5代目ジルの開発はジルノーブルや2014年発売のコルドとほぼ同時期で、設計部がノーブルと同じサイズでどうだろうかと、話を進めていきました」(佐藤社長)

5m超の全長は製作過程においても理由があった。それがルームエアコンの搭載で、もはやキャブコンだけでなくバンコンにも必需品の装備。当然だが新型ジルにも採用したい。しかし、室外機を置く位置が悩みどころで、ボディ左サイドやスペアタイヤ部分は避けたい。そこでボディ右サイド、先程話にあった2013年リリースのジルノーブルと同じ位置ということで、全長も同じ5160㎜となった。

バンテックセールスでは新型車の開発時にまずは社員からの意見を聞き、それが可能な仕様なのか、あると便利なのかを考えて設計部が取捨選択をする。今回、代表取締役である佐藤からの要望としてエアコンの装着とサードシートのリクライニング化、見栄えやこれまで不満とされた部分の改善があり、これは社員の総意でもあった。

「今回、ショーで現車を見た人たちから、5m超だからダメという意見はありませんでした。ジル520を出したときも、5mを超えていても、他に5mのモデルがあるのだからいいのでは?という意見が大半でした。その意味でも5m未満を求める人にはコルドを薦めればいいわけです」(佐藤社長)

5mを超えると貨物車扱いで、フェリー料金が高くなる傾向にあるが、それは昔の話で現在はサイズにより料金が細分化されている。新型のジルは5m以上6m未満での料金区分にあたる。そして、年間に何回利用するかを考えると、車内が広いほうがいいに決まっているとなった。

「5mへのこだわりをなくした最大の理由が、先代の動線ですね。車内のワンルーム感覚は評価されたのですが、エントランスからの通路が狭く、ファミリーユースとした場合、動きに制約があったのです。これを何とかしたかったので車長が伸びた分を、通路幅の拡大に充てました。約50㎜拡大のワイドのエントランスドアにして、その幅をそのまま通路にしました。これはウケがよかったですね。車内に一歩踏み込んだ瞬間から、おおっ! 広いね~!と感動してくれる人が多く、開発時にこだわった部分だけに、わかってくれてありがとうと」(佐藤社長)

「ジルのユーザーが納得してくれるジルにしたかった」と話す佐藤社長。その意味では、5代目のジルも、多くのジルユーザーから好評を得たという。

関連メーカー/ビルダー情報